小売業の非計画購買について

小売業の非計画購買について

jinbutsu佃浩輝氏(合同会社佃屋代表(中小企業診断士))

はじめに 

私は経営コンサルタントの活動を始めてまだ一年です。これまでの情報システムやソフ トウェア開発一筋で働いてきた中での人付き合いは、IT 技術者ばかりでしたが、この一年 は様々な業界の人々と知り合い、お話を聞かせて頂きました。また幾つかの企業様の経営
相談も手掛ける中で素晴らしい成果に繋がる取組をしている企業様を見ることが出来まし
た。そのような私の経験から、今回は、売上履歴を取得していない、またはしていても何
も活用していない小売業について、売上履歴を見てみる事の効果について記載させていた だきました。
1.売上履歴を見る効果 

従来の売上履歴分析といえば、売れ筋・死に筋分析かと思います。これらは商品の売れ
方の変化をキャッチして、仕入れ数・フェイス数を増やして販売機会の遺失を防ぐこと、
そして、売れなくなった商品の仕入れを閉じ、不良在庫の大量発生を防ぐといった、的確 な仕入れの仕方と的確なフェイス数管理による収益性改善を目的としています。  この売れ筋・死に筋分析はまず基本として実施すべきことです。ただこの分析の弱点は、
陳列した商品に限り有効であり、次に売れる商品は分かりませんし、置いていなかった商
品で、売れていたかもしれない商品は分からない、ということです。非計画購買を推進さ
せる買い方分析は、その弱点の部分を補強するものです。顧客がなぜそれを買ったのか、
動機・嗜好を類推する事で、陳列する商品の選定で、売れそうな商品を外さないようにす
る、そして、陳列棚に表記すべきPOPの文言や、陳列の配置などを、嗜好に沿ったもの
にすることで、買い忘れを減らす、関連購買を増やす、といった、単なる陳列では買わな かったであろう購買品(非計画購買)を強くすることを目的としています。

2.非計画購買の重要性 

小売業を取り巻く現状は厳しいものがあります。日本は少子高齢化の時代に入り、多く
の業種が縮小傾向にありますが、小売業も、96年をピークにゆるやかな縮小傾向上にあ
ります。業態別では、ドラッグストア、コンビニエンスストア、通信販売といった勝ち組
が出た一方、百貨店のような負け組も出てきています。その背景には、高齢化と、世帯構
成の変化、生活スタイルの変化による小売の利用形態・目的の変化があります。今後も少
子高齢化は進む為、小売業がこれから成長戦略を描く際には、高齢化の更なる進展を考慮
して、高齢者向けの商品・サービスの取り込みや、他店よりも魅力的な売り場づくり、固
定客の確保、大手の場合、成長している海外市場への進出といった戦略がポイントとなり ます。そのような戦略を進める上で、非計画購買推進が有効な手段となります。

小売市場規模の推移(出典:日本政策投資銀行)
小売市場規模の推移(出典:日本政策投資銀行)

3.非計画購買とは

非計画購買とは、その定義が明確に決められておらず、研究者によって個別に定義され
ているのが実状のようです。その中でも最大公約数的に定義しますと、名前の通りですが
「予定されていない購買」となり、「計画された購買」以外の購買になります。今晩はカレ
ーにしよう、と「計画」した場合、スーパーに行って牛肉、ジャガイモ、玉ねぎ、カレー
ルーといったカレー料理に必要な食材を購買します。これは、「計画購買」となります。し
かし、①店内に入り口にある特売コーナーで、いつもは割高な値段の定番惣菜が、3割引
きで販売していたのでチャンスとばかりに思わず買いものカゴへ ②玉ねぎを陳列クーラ
ーから取ろうとしたら、横の陳列クーラーに、「緊急入荷!鳥取県の○○農家の今朝産みた ての卵」という POP付の陳列が出ており、フレッシュさに惹かれ、明日の卵かけごはんに でも、と、卵を買いものカゴへ ③カレールーをどれにしようかと選んでいたら、「カレー のコクがアップ!ご存じですか?カレーの意外な隠し味にオイスターソース」という POP を見てしまい、新しい味にチャレンジしたくなり、カレールーに加えてオイスターソース
も思わず買いものカゴへ ④レジに並んでいると、レジ前のカウンターに乾電池が陳列さ
れていた。そうそう、最近テレビのリモコンの利きが悪くなっていて、そろそろ新しい電
池を買わないといけなかった事を思い出した、という事で電池も買いものカゴへ このよ
うに当初カレーの材料を買いに行った時点では計画していなかった商品を、入店後の店内
経験により購買しました。このような行為を非計画購買と言います。非計画購買は、消費 者が自発的に発生させる事もありますが、店内の POPや、店員の接客サービス、陳列の方 法など店側の工夫で消費者に気づきや、衝動性を高め、促進させます。

4.非計画購買率について(購買時の非計画購買比率は非常に高い)

店舗購買における非計画購買の比率の調査は、いくつかありますが、どれもが6~8割
となっています。つまり、来店客の購買内容を決定づける要素として、来店客が店舗に入
ってから、計画購買品以外のものを買ってもらう工夫が非常に大きな要素であり、意識し て取り組むべき部分だと言えます。

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非計画購買調査の推移(出典:専修大学商学研究所)

5.非計画購買促進の効用について(売上・収益性の拡大の為に)

第一義に、前述のカレー購買の例の通り、来店客の購買単価を向上させることで売上の
拡大につながるメリットがあります。また、衝動買い商品に関しては、計画購買に比べて
価格意識が薄くなるという傾向がありますので、セールによる非計画購買促進以外では収 益性向上にも貢献します。
6.非計画購買促進の効用について(競争力の確保の為に)

売上拡大・収益性の拡大だけではなく、他店との競争力の育成という防衛面でも繋がり
ます。現在の小売市場は、消費者の需要量よりも販売者の供給能力の方が大きく、小売店
舗同士の販売競争は激しくなっています。その中で、自店の売上を他店に取られないよう
にするには、①顧客の囲い込み、②差別化(店舗コンセプト、品ぞろえ、サービス、価格
等)といった戦略が考えられます。品ぞろえや、価格などでの差別化では他店、特に大手
との差別化は無理ですが、提案力やサービス力では大手との差別化も可能です。来店客が、
非計画購買の取組の一つである、いつも何か新しくて面白い提案をしている、なぜか飽き
ない店内陳列というイメージが定着しますと、それは顧客のストアロイヤリティの向上に 繋がり、ひいては顧客の維持に繋がります。
7.非計画購買促進の推進に当たってのポイント(買い方分析)

非計画購買を促進させる最終的な手法となりますと、陳列の工夫、POP、店員のサービ スなどいわゆる「インストアマーチャンダイジング(以下 ISM)」のカテゴリに入ります。
これに関しては多数書籍が出ているように、本が書けるほどの多様な手法があります。ま た、店の業態によって手法も変わります。しかし、共通的に必要なのは、ISM を行う前に、 客を知ることです。客を知り、知った上で、その客の為に有用な ISM を行うのが非計画購 買の推進に繋がる ISM です。POP で例えますと、POP をつければいいものではなく、ま た、POP が目立つものであればそれでいいものでもありません。商品の赤ワインに対して、 「肉料理に合います」という POP をつける場合と、「ポリフェノールが体にいいです」と いう POPをつけるのかで全く訴求方向が変わります。もし、来店客に健康志向な方が多い 場合、「肉料理に合います」という POP ではワインの非計画購買は発生しないでしょう。 ISM を行う際には、手法を用いるにあたっての理由づけ(なぜ、POP での表現がそのよう な文言なのか、なぜ、その陳列棚には、これらの商品が並べられるのか)を重視してくだ さい。その理由づけを行う為にはどのようにすればいいかを次に提案します。
非計画購買推進の心得

1.売上履歴をきちんと記録しましょう。

2.売上履歴を分析しましょう。

3.分析結果からお客さんの好み・ライフスタイルを想像しましょう。
POS の出現以降、小売店舗が売上履歴を蓄積保有する為のハードルが大きく下がりまし た。また、POS 機器の価格も安くなったため、売上履歴を取得する店舗は多くなりました。 しかし、履歴を見ての「振り返り分析」を行っていない店舗は多く見受けられます。振り
返り分析をしていても、売れ筋・死に筋といった、品切れ・過剰在庫を回避する為の分析 で終了し、来店客の好みのサインを読み取る分析はしていないお店が多いと思います。  では、お客さんの好みを読み取るデータの分析手法ですが、やり方は以下の通りです。

レシート(購買履歴)を流し見していく

これだけを月に1回でも定期的に行う事だけでも、自店の来店客がどのような買い物を
しているのか次第に見えてくるようになります。これを行うに当たって、一つポイントが
あります。それは、レシートの中の個々の商品が、どのような好みのシグナルを持ってい
るのかを意識しながら読み込む事です。例えば、複数のサイズがあるカットフルーツのパ
ックを購買している場合、購買サイズが「小」であれば、一人暮らしの方に、「大」であれ
ば、ファミリーの方に支持される商品です。同じ商品でも、サイズが違えば、まったく違
う顧客層となります。次に、同じアトランティックサーモンの刺身パックでも、カットし
たものと、ブロックのままのものとでは、カットしたものは「そのまま食べたい派」であ
り、ブロックのままのものは、「手間はかかるが、量が欲しい派(カットしていない刺身は
グラム単価が安い)」と、先ほどの世帯構成の軸ではなく、好みの軸でも分ける事が出来ま
す。このように、個々の商品が持つ「好みのシグナル」を意識しながら、レシートを流し
見していき、どのような顧客グループが来ているのか、そして、経年変化でどのようなお 客さんが増えてきたのか、減ってきたのかという分析を行う事で、ISM の精度が向上し、 非計画購買率の向上に役立ちます。

プロフィール(佃 浩輝について)

合同会社佃屋 代表。中小企業診断士(平成22年登録)。システムエンジニアから最終的 にデータベースエンジニアとして各種企業の情報システム開発、IT インフラ整備、大手企 業の基幹データベース開発・運営に参加。平成23年から経営コンサルタントとして各種
コンサルティング業務も開始。データベースエンジニアの視点から、データを軸にした各 種コンサルティング及び、企業のIT基盤整備に関するコンサルティングを行っている。 平成24年2月、大阪府中小企業診断協会にて、中小企業診断士を対象に、中小企業に対 するクラウドサービスの導入指導のポイントについてセミナー実施