技術開発と抵抗勢力

技術開発と抵抗勢力

jinbutsu岡崎永実子氏(中小企業診断士)

製造業をはじめ多くの企業で技術を強みにしていることは、みなさんご承知のことだと思います。私が以前に勤務していた建設会社でも、中期経営計画の副題を「技術を核として利益成長企業へ」としていたことがありました。ですが、今、強みがあってもその技術はいずれは役に立たない日がやってくるかもしれません。例えば、ブラウン管テレビが液晶に、銀塩カメラがデジタルカメラに移り変わりました。関連産業では必要とされる技術や製品が変化してきただけでなく、自社の技術や製品が必要とされなくなってきた企業もあるのではないでしょうか。このような環境変化に伴い、企業は新たな技術や市場に対応していく必要があります。

抵抗勢力の存在
環境変化に技術開発や製品開発で対応しようとしても、多くの方が実感されているように、そう簡単なことではありません。例えば、新事業を担当して、社内で協力を得ることにご苦労された方がいるかもしれません。今まで自社にない新しい技術や製品の開発を推進しようとすると抵抗勢力に直面することがあります。抵抗勢力とは大袈裟かもしれませんが、新しいことに対してこころよく思わない、又は消極的な人達です。もちろん、抵抗勢力など現れず、企業全体が新しいことを歓迎する社風の企業もあります。しかし、そうではない企業もある程度、存在するのではないでしょうか。

資源配分に対する考え方
新しいものに反発する大きな理由の1つに経営資源の配分が考えられます。社内では企業業績に大きく貢献している事業部門や製品チームが力を持っていることが多くあります。貢献度が大きい組織では、当然、自分達への資源配分は大きくなると考えています。自分たちの稼ぎを、実績のない新技術や新製品にもっていかれるのは面白くないので、新技術等への経営資源の投入に反対します。 最初に述べたように、製品や事業は変わっていく必要があります。将来の事業に投資を行っていかなければなりません。しかし、貢献度に応じた資源配分のみであれば、将来を担う技術や製品に、十分な資金や人材が投入されなくなってしまいます。

リスク回避行動
もう1つの理由がリスク回避です。新しい技術や製品、特に革新的なものは、実績がある既存のものよりリスクが高くなります。よく分からないものに手を出して失敗したくないと考える人は少なくありません。チャレンジを評価せず成果のみで判断する社風の企業では、このようなことが多いのではないでしょうか。失敗すると一気に社内での評価が下がってしまう恐れがあります。そのため、革新的なものを避け、従来の延長線上の仕事を選択しがちになります。特に、現状売れている製品があり、それで企業がある程度の業績をあげているのであれば、なおさら危険なことに関わりたくありません。 また、無事に新製品開発までこぎつけても、初めは売上高、利益額ともに小さく、新製品に注力しても部門や個人にとっては実績に結び付かないリスクがあります。そのため、新製品は軽く扱われ、いつまで経っても売上規模が伸びないという悪循環に陥ります。そして前述した資源配分の問題にも繋がっていくのです。

解決策
解決策の1つとしては、当たり前になりますが、資源配分は利益の大小ではなく、会社の戦略に基づいて行うというルールを社内に定着させることです。同時に、従業員全体が戦略を理解することも必要です。 2つ目は、新しいことへの挑戦に対して、インセンティブを与えることです。 抵抗勢力が出てくるのは、企業への直接の貢献度のみが優先される社風や人事考課等の制度によるものが大きいと考えられます。そのため、従業員の評価基準の見直しや管理職教育により、新しいことへの挑戦を評価する土壌を作ることが必要と考えられます。社風変革にまで踏み込むことになるかもしれません。 3つ目は、既存事業の延長線にない新事業分野では社長直轄の組織とすることが考えられます。既存事業と異なる新事業を同じ組織内に置くと、利益の出ている既存事業を優先しがちになるためです。但し、既存事業部門からみると新規事業部門は特別扱いされていると思うことがあり、両者の対立が起こらない工夫が必要となります。そのためには、やはり戦略をどこまで浸透させることができるかが鍵だと思われます。

最後に
上記で述べたのは、技術開発や製品開発の際の問題の1つにしかすぎません。他にもマーケティングや資金調達など様々な課題があります。それら全体を対象とする学問として技術経営学(MOT)があります。経済産業省が2005年に発行した「技術経営のすすめ」によると、技術経営とは『技術に立脚する事業を行う企業・組織が、持続的発展のために、技術が持つ可能性を見極めて事業に結びつけ、経済的価値を創出していくマネジメント』とされています。技術経営で扱う範囲は戦略、技術開発、マーケティング、知財、組織、生産など経営全般にわたり、技術を切り口に経営学の内容を更に深めたものといえます。 企業で技術的な部分を担っている大半は理系出身の研究者です。あるMOT大学院のパンフレットでは、現役技術者の主な学ぶ動機として、「マネジメントが分かる技術者になりたい」と記載されています。つまり、技術者にもマネジメント(経営)への理解が必要との認識が広がってきています。技術面と経営面の両方から、自社技術や製品を考えていくことが重要ではないでしょうか。 日本では技術経営が広がり始めて10年程度ですが、技術を企業の活性化に結びつけられるマネジメンの実践に役立つと思われます。
(注)MOT:Technology of Management

                                    以 上

 

 

プロフィール

大手建設会社でエンジニアとして勤務。動線計画のプロとして、食品工場等の生産施設構築に携わり、食品衛生と使いやすさの両立を追及する。その他に新規事業の調査なども経験。
また、外部環境変化に応じた技術戦略の重要性に気づき、大学院で技術経営(MOT)を学ぶ。研究分野は建設業の新規事業育成。
2012年4月に、経営コンサルタントとして独立。食品製造業を中心に中小企業の支援を行っている。
ホームページ http://www.eternity-lab.com