安田勝也氏(安田コンサルティング代表(中小企業診断士・行政書士))

はじめに

私は平成17年の創業以来、「建設業大好きコンサルタント」として建設業界の振興と企業支援を事業の中心に据えて活動している。今回恥じを承知の上で日々のコンサルティング活動のなかで心がけていることなど記載させて頂いた。その目的は皆さんに広く建設業のことを知ってもらうこと。そして建設業支援にあたるコンサルタントが増え、業界の振興につながればと願っている。

業界のこと

コンサルティングの要点を話す前にまずは建設業界の動向について。建設投資はピーク時のときから半分となりここ数年は40兆円前後といわれている。震災復興予算のために幾分のかさ上げが見られるがこの数字に復興予算は含まれていない。下がり続けた建設投資は下げ止まりの兆候を見せている。その理由は新設需要の低下分に見合う、これまでに膨大にストックされた社会資本の維持修繕需要が伸びてきているからである。建設投資全体のなかで維持修繕が占める割合はおよそ25%。これが将来どこまで伸びるかについては欧州各国の例を見ればおよそ半分までと予想される。すなわち全体は40兆円のままで、新設が減り20兆円。維持修繕が増え20兆円という構成に近づいていくという状況である。

国などの公的機関が建設業向けに行う施策としては数年前までは他産業への新分野進出。これが一段落したため、今は中小建設業も含めて海外進出を支援している状況である。設計などのサービス部門が中心か或いは、特殊工法や建材などを所有する企業は別として現場作業を行う労務部門を持つ企業にとって地域密着は必然であり海外進出とは無縁である。住宅部門においてはエコポイント制度で一時期活性化が見られたが、窓・サッシリフォームの一人勝ち状態であった。また同制度によりポイント申請を行うことが難しい・面倒といった理由からエコポイントを申請しないかわりにその分を値引きする工務店が見られるなど制度の弊害も見られた。

震災に関しては、関東地方はもちろん関西においても職人不足は顕著である。職人単価の高騰により公共工事が不調となるなどの弊害も現れている。私の周りにも関西での現場作業を途中で投げ出し東北地方へ出稼ぎにいく職人がいた。その一方でその空いた穴を埋めてシェアを伸ばす地元企業の営業活動も盛んであり、出稼ぎにいった職人が帰ってくる場所はもう無いというケースも起こりそうである。

震災に関して、この場を借りて申し上げておきたいことがある。建設業の振興を目的として活動する私の我がままとして許して欲しい。震災における自衛隊や消防・警察、地元自治体の職員の方々の活躍がマスコミにより大きく報じられ、その姿に感動した人も多いと思う。しかし自衛隊が駆けつけるまえに「その活動の妨げになってはいけない」とがれきを撤去して車を通れるようにするなどの初動活動を行った建設会社の存在を忘れないでほしい。自治体機能も失われている状態で、建設業協会などの業界団体が地域建設会社を組織化し重機保有の状況などを把握していたため、独自の判断で初動活動を行えたことなど賞賛に値することが数多くあったことも忘れないでほしい。

これらが建設業界のおかれている現状である。

コンサルティング活動のこと

建設業と一言でいってもその内容は多岐にわたる。企業が置かれている状況も千差万別である。ここでは土木など公共工事主体で行ってきた企業に対してコンサルティングをする上での留意点について記載する。

まずは企業の状況を把握することが大切であるから内部環境分析は欠かせない。特に「強み」の抽出である。ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源の観点からと、もう一つはQ(品質)・C(コスト)・D(工期・納期)・S(付帯サービス)・S(安全)の5分野からの抽出を行う。QCSDにもう一つSがつくのは建設業ならではである。S(安全)にとことんこだわって優位性を発揮している建設会社も存在するのである。

「誇り」を持たせることも大切である。建設会社の中で特に土木工事に従事してきた企業は明確な経営理念が無い状態で、自治体からの公共工事に対して労務提供し続けてきたところが多い。そこに公共工事の減少のあおりを受けて業績が悪化し経営相談にやってくる。仕事は与えられるものという意識が強く、経営者として必要な「仕事を創る」という考え方が不足している。「創る」ための原動力となるのが「誇り」である。これまで自分達が行ってきた社会資本整備が世の中に何をもたらしたのか今一度確認するのである。「地域を守る、命を守る、世の中にとって掛け替えのない産業の1つが建設業である。」

「誇り」の次は経営理念の確立である。会社を経営することが目的となっている経営者が多い。そうではなく、「会社を経営することによって世の中をどうしたいのか?」に対する答えが経営理念である。建設会社は経営理念として「社会資本整備を通した地域貢献」がテーマになることが多い。「地域」を見据えることでエンドユーザー(社会資本の利用者)の姿が見えてくる。これが顧客の視点に立つことのきっかけとなっていく。

経営理念の次はビジョンの確立である。5年後の姿を描くのであるが、経営者が理想とする5年後を想像してもらう。よりイメージを具体化するために様々な質問を投げかける。あるいは絵に描いてもらうことも有効的である。ただし、「公共工事が増えている」などの外部要因をビジョンに入れてはいけない。自分の力ではどうにもならないからである。理想を思い浮かべ具体化していく作業は楽しく相談者を前向きにさせる。誇りを取り戻し前向きになった経営者はとても魅力的である。

ビジョンができたならばそこに到達するための作戦を練る必要がある。そのために必要なのは外部環境と内部環境。外部環境はコンサルタントとしてマクロ環境・ミクロ環境の両面から相談者に情報提供する必要がある。先に述べた建設業界の動向も当然伝えなければならない。ミクロ環境のさらに細かい情報として経営者自身に周りで起こっていることを述べてもらいまとめる。内部環境は強みを中心にまとめるが、それは先に記載した通りである。周りの状況と自分の強みがはっきりすればビジョン到達のためにどういった作戦で進んでいけばいいかがわかる。

あとは計画の立案。作戦が定まればビジョン到達に向けての数値目標と期限を定めて行動計画を立てる。ここであいまいさはなるべく排除する。計画を立てることのメリットの大半は、その後の進捗管理にある。進捗が把握できない行動計画は意味をなさない。

行動計画の中では様々なアイデアを提供する必要がある。ここで活きてくるのは他社事例である。リフォーム業の営業ツールやインターネットの活用、さらには現場管理手法など多岐に渡る。必要な行動項目がリストアップできたならば、不必要な行動項目が含まれていないかチェックする。思いつきで入れた行動項目はビジョン到達のために意味を成さないものが多い。一般的に有用と思われている項目であってもビジョンに向かわないのであれば思い切って排除する。建設会社の行動計画立案を支援する中で、意識的に取り組むべきなのは「顧客の視点に立つ」ことである。この「顧客」とは直接の得意先。そして得意先にとっての顧客(すなわち『「顧客」の「顧客」』)、最後にエンドユーザーの3種を指す。特に『「顧客」の「顧客」』を喜ばすことが大切である。ただしエンドユーザーの視点に立って経営理念に反していないかは当然チェックするべきである。

顧客の視点に立ってもらう際によく使う手は一枚の写真である。新築住宅の引渡しの日。施主が記念にと家族全員で玄関の前に立ち記念写真を撮る。この写真を見てもらう。そして質問。

「あなたが売っているものは何か?」

「住宅です」

「それでは、この家族が買ったものは何か?」

「・・・・・」

この家族が買ったのは家ではなく、「幸せな暮らし」である。そこに気がついてこそ顧客の視点である。住宅建築の工務店としてできることは限られていても、「幸せな暮らし」のプロデューサーとしてできることは無限に思いつく。それが先述の4つ目の強み要素「S(付帯サービス)」に繋がれば最高である。ちなみに5つ目の強み要素「S(安全)」も顧客の視点に立つ必要がある。ヘルメットを着用しないで現場作業を行う人をいまだに見かける。くわえタバコで作業にあたる人も多い。「事故が起こると世の中がどうなるか?」という問いに対して想像力が足りなさ過ぎる。自分だけの問題ではない。会社だけの問題ではない。これは顧客を含む世の中全体に波及する問題であることに気がつけば無責任な現場作業はできないはずなのだ。これに気がついてもらうのも私の仕事の1つである。

行動計画立案でもう一つ意識的に取り組むことはインターネットなどを活用した「情報発信」である。下請構造という閉じた世界の中で事業を行ってきた企業は広く情報を発信することが苦手である。「下請だからインターネットで広く発信しても・・・」という言い分は2つの間違いがある。それは小さなコミュニティであっても情報把握のためにインターネットが利用されるということと、発信先は「直接の顧客」だけではないということである。「経営理念のもと、ビジョンを掲げ、事業を通して地域社会に貢献する素晴らしい企業が、この国、この地域、あなたの街に存在している」ということを発信するのである。そのためにはインターネットの活用が欠かせない。ホームページやブログ、facebookでも何でもいい。まずは発信することが大切である。発信できるようになれば、インターネットをマーケティングに活用することも考えてもいい。

以上のところまでがコンサルティング支援の初期段階で行うことである。計画ができれば月次のタイミングで進捗管理を行う。外部環境に左右され行動計画が達成されないことは多い。未達成の理由が「忙しかったから」は許されない。忙しいことをいいことに経営管理を怠り今の状態に陥ったのではなかったのかと正す必要がある。「状況が変わったから」は再度環境分析を行う必要がある。ビジョンに向けて採りうる作戦が変わったのであれば思い切って行動項目を見直す必要もある。

計画を遂行するにあたり予定通りいかないことは多い。そうした経営者の頭のなかは危機感でいっぱいである。しかし相談当初の頭のなかは不安でいっぱいだったはずである。相談者の頭を不安から危機感に変えること。これはコンサルタントの重要な役割の1つである。

コンサルタントとして「計画を遂行させる」のではなく、「一緒に遂行する」という立場が大切である。これからも企業と二人三脚でがんばっていきたい。

以 上

プロフィール

2005年に安田コンサルティングを設立。コンサルティング、セミナー・講演会、システム開発等に従事。主に、建設業における経営戦略立案を初め、営業・原価管理・コストダウン・IT等幅広い支援を行っている。
中小企業診断士、行政書士、システムアナリスト、建設業経理事務士1級、和歌山大学システム工学部非常勤講師。

安田コンサルティングのURL:http://yasucon.jp