桑山政明氏(中小企業診断士)

■はじめに

私は2002年4月、3次実習を終了し、晴れて診断士に登録すると同時に日本を離れ、診断士としてのスキルアップを、なにかと話題の多い国、 中国で実践することとなりました。帰国後も中国をはじめアジア中心に業務や出張あるいは個人旅行を通じて、“為替レートって何?”を自身のグローバルビジネス 課題のメインテーマとして自問自答してきました。このコラムでは中国を例にとり、経験的持論を稚拙ではありますが紹介させていただきます。

■外国為替レート昨今

はじめて中国に赴任した2002年当時ドル/円は1US$=125.39円(年平均)でした。

出典:世界経済のネタ帳 最近の円安が進む中で、ふりかえると13年前に戻るだけ・・かもしれません。 でもその間にITバブル崩壊やリーマンショックとその後の経済停滞、などの大波と円高時代を、日本経済は乗り越えてきました。  昨今、アベノミクスで円安が進む中、以前ならすぐに収益改善に各社ともつながるはずが、クルマ業界以外 あまり回復がぱっとしない。そこには大きな国際間取引あるいは企業行動の構造変化があるのは昨今の論評の通りです。 すでにアジアでの生産目的が、コスト削減目的の日本持ち帰りから、現地の消費拡大を取り込むための“地産地消”にかわっていっていることが現実を如実に示しています。

さて、そのテーマの為替レートを人民元=で見てみましょう。

出典:世界経済のネタ帳 以前、中国人民元はドルペッグ制で、ドルの高低がそのまま反映する仕組みでした。その後 2005年から通貨バスケット制度に変わり、実質元の切り上げが行われだんだん元が強くなっていきました。グラフを見るとそれが如実に見て取れます。 途中までは対円での動きは同じでしたが2012年以降は元の上振れは顕著になってきます。 2002年当時 1元15円位 それが今や1元20円の時代になっています。円高最盛期の2011年は1元12円台。 その頃、中国に旅行して1万円を両替すると800元以上になりましたが、いまなら500元台以下です。逆に例えば800元を日本円に換えると以前の1万円が1.6万円以上になります。 いまや日本は安い=中国観光客の爆買い行動の理由の一つかもしれません。またこのグラフでは香港ドルレートも載せてます。2008年を境に人民元が香港ドルと入れ替わってます。これが中国経済の成長を示す一つの転換点かもしれません。

■生活者感覚での“為替レート換算”って

さて、そこで先輩赴任者から教えられたのは生活者目線での“庶民為替レート”(勝手に命名)です。 各国の国内通貨価値を知る上での経済指標としての“ビッグマック指標”(イギリス エコノミスト誌提唱)をご存知の方も多いと思います。世界で商品が販売される場合、 同一品質商品は同じ原価構成という考え方で 世界各国で販売されているビックマックの販売価格を比較することで購買力平価説による為替の指標となる、という考え方です。

☆庶民為替レート=公共交通機関比較仮説☆
ビッグマック指標とは似て非なる、より庶民感覚のレートがこれから述べるレート計算方法です。 それで結論的に述べると、2002年当時いろんな情報を整理すると、1元=100円という庶民レート換算値でした。これで現地物価を観ると消費者の皮膚感覚で捉えることができるという仮説です。 無理やり理論的に考える根拠として、例えば 庶民の足=バスで考えてみました。  大体中国はどの都市でも バス料金2元/1回位が標準の料金です。(あまり今も変わらないようですが)  これを為替公式のレートで換算すると 2元x15円=30円・・・さすが安い!と思ってしまいます。  (でも、偶然、私が数十年前の幼少期 たしか大阪市バスは30円だったと思います) でも 日本のバスが1回200円程度とすると 200円÷2元=100倍となります。 そこで仮に“庶民為替レート”1元100円で仮定すると

  ・・などと この100倍レートは日本で生活するサラリーマン感覚では違和感ないかな?との結論でした。 その後、中国生活ではこの“庶民為替レート”で換算することで日本と中国の貨幣価値の整理に役立ててきた訳です。

☆現地マーケティング戦略に必須の消費者目線への応用
例えば 現地で生産し日本に輸入販売する時は、通常の為替レートで計算することが必須です。それで計算しないと、収益性判断や決算ができません。 ところが現地で販売しようとする時、マーケティング策を考える基本は消費者価格です。そこで消費者の購買力、類似商品価格、ブランド力など総合的に勘案して販売価格を決めると思いますが、 公式の為替レートだけでの計算では判断を誤ることがあります。特にボリュームゾーンを対象とする商品の時は、消費者の購買力評価も大きな要素です。 例えば低価格帯商品を発売するときに1個50元で出す時、前述の15円/1元で計算すると 円換算で750円なので、安い・・・と感じてしまいます。 でも 100円//1元で計算すると 5000円なので、日本で自分が買い物をする感覚に立ち返って“結構高い商品だ”などと・・と判断できます。  但し、ここでもう一つ考慮が必要なのが 地域格差の問題です。 これまでの数字は中国広州を基準に考えてみました。ただし、当時でもバス代がどこも似たりよったりですが都市間格差を感覚的に換算すると 北京・上海は 広州の七掛け位だったと思います。  やはり政治首都、経済首都の所得水準を考えると70円/1元位の換算がちょうどだったと思います。逆に 農村部だと、それが150円、200円・・という風に格差が広がるとも考える必要があります。 私の中国駐在期間6年の内、前半は広州、後半は北京で生活し地方にもよく出張してましたので、一応日々の生活の実感として、さほど外れていないと思います。

☆最低賃金で見る購買力の変化
中国の場合、地域格差も大きいですが 実質所得の部分はよく捉えないと 判断を誤る可能性があると思います。間違っても 全平均所得だけで判断しては問題があります。・ 例えば、一つの指標として最低賃金を考えてみましょう。 広州市を例とすると、今年5月から1895元に引上げられましたが前年比では一挙に26.5%増、この十年では約3倍になります。 これを日本の最低賃金でみると2003年当時 時給664円/全国加重平均) それが2015年は時給780円(同) で、12年間で17%です。中国での人件費高騰は皆さんご存知の通りですが、別の見方をすると、消費力も格段に伸びていると言えます。 所得格差の問題は日本以上に二極化する国なので、その点の分析は引き続き取組んでいくつもりです。

■新興国市場への戦略立案に必要な実感為替レート

以上、中国の話ばかりでしたが、中小企業、大企業問わず 今後 グローバル市場、とりわけアジア新興国市場への取り組みが成長のエンジンと考える会社も多いと思います。  日本からの輸出、現地調達・生産・販売、など市場開発での価格設定の検討には為替レートの課題は付きまとうはずです。その時、“現地通貨基準での検討”と“日本円あるいはUSドル換算での事業化検討”には、 それをつなぐ 2つの為替レート ”外国為替市場レート“と”庶民為替レート“の感覚がいろんな場面で求められると思いますし、現地市場開拓を進める以上、一層その感覚を高める必要があると思います。 私もこれまでの経験を踏まえて、より新鮮な現地情報で一層理論をブラッシュアップして活動に役立てていきたいと思います。

プロフィール

1959年 大阪府出身
1982年 電機メーカー入社以降、経理畑でこれまで
国内外事業所で勤務。関連してSCM周辺業務も担当し、連結会社でCIOとしてERP導入等の推進も経験。
現在は研究開発部門で経営管理を担当
2002年 中小企業診断士 登録
2011年 ITストラテジスト 取得