山口透氏(中小企業診断士)

■はじめに

誰かに仕事を依頼して「あの仕事はどうなっている?」と尋ねた時、「はい。もうすぐ終わります」という返事を受け取ることがあります。そして、この3日後に「あの仕事はどうなった?」 と聞くと「もう少しなんですけどね」と返事を受け取り、結局仕事が進んでいるのかどうかよくわからない時があります。
このようなことを減らし、仕事を円滑に進めるためには、タスク管理や進捗管理が重要です。
進捗管理と聞くと製品の生産現場をイメージするでしょう。製品の生産現場では、生産計画を立てて進捗管理を日々行っています。 しかし、外出が多い営業職や社内で伝票処理をする事務職、総務や人事などのスタッフ部門ではどうでしょうか。営業職は電話対応やクレーム等のお客様都合で割り込みが発生することが多く、 仕事の優先度が頻繁に変わります。このため仕事の管理は製造現場ほど日常的に行われていません。また事務職やスタッフ部門であっても、さまざまな関係者からの依頼によって仕事の優先度が変わります。 この結果、「今日までにやろうと思っていたができなかった」という状況が発生することが少なくありません。このため、職種にかぎらずどのような仕事でも、タスク管理や進捗管理を意識する必要があります。

ここでは、タスク管理や進捗管理などを行うポイントと、ツールの利用について述べます。

■管理する方向性を明確にする

1つ目のポイントは、どのような目的で何を管理するかという方向性を決めます。何が問題で何が把握できていないのか、どのような現象が発生しているのか、現状の問題点を確認しどのような項目を管理するかということを決めます。
個人がタスク管理をする場合は、「自分でやるべき仕事の概要は理解しているが、優先順位が自分で決められない」ということがあります。例えば、営業職は短期的な売上が重要なので、 いつかやらなければならないと思っている新規顧客の開拓が疎かになりがちです。この対応としては、納期が気になる得意先であっても翌日に確認すれば良いのであれば、優先度を変えて取り掛かるようにします。 日々優先度を変えて仕事に取り組むために、やるべき仕事を全て洗い出しリスト化してタスクの優先順位を考えます。
部門やグループでは、「進めている仕事の進捗状況がわからない」ということがあります。この時は、初めに大きなタスクを作り、そのタスクの意味は何かという共通認識をメンバーで共有します。 次にグループのメンバーがそれぞれに視点で進捗を管理するとともに、グループのマネージャーが共有した大きなタスクの意味から外れないように確認しながら進捗を管理していきます。

■管理の細かさを決めて見直しをする

2つ目のポイントは、どこまで管理するかです。どこまでというのは、管理の細かさを決めることです。細かさというのは、管理項目が完了するまでの期間です。この細かさをタスクの階層ごとに合わせるのです。 例えば、ある項目の細かさを1ヶ月とした場合、他の項目も同じように1ヶ月と揃えます。こうすることで、タスクの見直し時期がそのタスクの階層で一定になるため、管理項目の追加や見直しがやりやすくなります。
例えば、個人レベルのタスク管理は、「週単位でタスクを見直し、個人が実行することは日単位にメモやノートで完了確認をする」といったことが考えられます。このどこまで管理するかということは、どのタイミングでタスクを見直すかということに関わってきます。  タスクの細かさを決めて見直しをするために、「はじめは1週間毎に見直しを行う」というように定時的に見直しを実施しても構いません。
そして、現在の管理上の問題点を確認し、最低限何の項目をどこまで管理するかということを決めた後は、遅れや問題の発生ごとに柔軟に変更することが望ましいです。

■管理手法とツールを選択する

3つ目のポイントは、どのようにして管理するかです。具体的には手法とツールの選択です。タスク管理、進捗管理など管理する内容によって、様々な手法があります。
例えば、タスク管理手法には GTD(Getting Things Done)があります。GTDは、やらなければならないタスクを1箇所に集め、次々とこなしていくことでタスクが溜まるストレスを軽減する管理手法です。 GTDを実行するポイントは、タスクに実行中に思い浮かぶやるべきことを思い出した場合は、すぐにタスクリストに追加します。タスクを一箇所に集めることで「あとは何の仕事をするべきだっただろうか」と考える必要がなくなり、頭をすっきりさせる効果があります。

進捗を管理する手法には、やるべきことを大きい単位から細かい単位へと分解する WBS(図1)を使った手法があります。WBSは、「Work Breakdown Structure」と呼ばれ、仕事を責任者や成果物の切り口で分解して構造的に表します。 これを日々の進捗管理に利用するということができます。

図1 WBSを使った進捗管理の例

図1 WBSを使った進捗管理の例 ツールは、手帳や付箋といったアナログなツールのほか、パソコン、スマートフォン、タブレット、クラウド、などのデジタルを活用することも選択肢に上がります。
タスク管理を例に取ると、紙で管理する場合は自分がやらなければならないタスクを一覧形式でリスト化するでしょう。これをスマートフォンで管理することもできます。 アプリケーションを使えば、優先度の変更やポップアップによる表示やメールによるリマインダーができるので、期日を守りやすくなります。

他にはクラウドサービスのりようも検討します。クラウドサービスは、無料から有料のものまで数多くあります。私がよく利用しているタスク管理サービスを上げておきます。
Checkpad:http://www.checkpad.jp/
Backlog:http://www.backlog.jp/
Remember The Milk:http://www.rememberthemilk.com/
REDMINE:http://redmine.jp/
Brabio!:http://brabio.jp/

Checkpadは、リスト形式のシンプルなToDo管理サービスです。管理したいタスクを入力してリスト化します。完了した後はチェックを入れるとリストから削除されます。基本的な設計概念は、タスク管理手法のGTDです。 やらなければならないタスクをこのサービスに集めることで、実行漏れをなくすとともにタスクを全て吐き出すことでストレスをなくすことができます。

Backlog(図2)は、タスクの進捗状況を共有するサービスです。管理したいタスクを入力した後は、登録されたメンバーに公開します。 公開タスクに対して「XXはできました」「XXはエラーが出て進みません」などの進捗状況や問題点などを入力して、メンバー間でタスクの進捗状況をお互いが確認できます。

図2 クラウドサービスの例「Backlog」

図2 クラウドサービスの例「Backlog」 クラウドサービスは、パソコンの他にスマートフォンやタブレットで使うことができるので、いつでもどこでも離れた場所でもタスクの管理ができるのが利点です。また、社内外のメンバーとタスクの共有が簡単にできます。

■最後に

タスク管理や進捗管理は、「計画を立て、立てた計画が実行できたかを確認する」という手間がかかります。さらに、日々の仕事内容や優先度が変わる職種では、計画そのものを立てることが少ないかもしれません。 しかし、手法やツールを利用することで、管理の手間を減らすことができます。さらに共有化することができるので、生産性の向上が図られます。

プロフィール

山口 透 (やまぐちとおる)
流通業や製造業に対して、IT戦略策定支援やバランススコアカードの導入、経営改善指導などを行っている。中小企業診断士、ITコーディネータ、システムアナリスト
著書:「ITコンサルティングの基本」(共著)、「個人情報保護士公式テキスト」(共著)、他多数
ホームページ http://www.yama91.com